2017年 07月 08日
M6 Summilux 35F1.4 1 July 1997 Hong Kong 20年前の中国回帰までは、足繁く香港に通い、ライカを下げて街をぶらぶらしていた。まだ僕も若く、M6にカラーポジ、M4にモノクロというスタイルだった。そして香港が英国から中国に返還された1997年6月30日から7月1日にかけても、ライカを下げて、1日中、香港島と九龍側をぶらぶらと歩いた。 その7月1日に撮影した中でいちばん心に残る写真が、この五星紅旗のおじいさんの一枚だった。若者たちは返還されることを不安がっていたが、湾仔の薄暗い階段で茘枝(ライチ)を売っていたおじいさんは、中国への回帰を心の底から喜んでいた。 その年の暮れ、中国に回帰した香港に行って、この写真のプリントを渡そうとおじいさんのいた階段に行ってみたが、この場所に姿はなかった。写真を見せながら、付近を訪ね歩いていると、髭を生やし香港映画に出て来そうな面構えの頑固そうなおじさんが商売の手を止めて、おじいさんがよく行く香港人しかいない広い食堂や小さな飯屋に連れて行ってくれ、人でごった返す店内を一緒に探してくれた。最後には住民しか入って行けそうにないビルの谷間の暗い路地に入り、古い雑居ビルにあるおじいさんの部屋にまで連れて行ってくれ、大声で名を叫びながらドアを叩いてくれた。ビルへの小路は湿ってズルズルと靴を滑らせ、部屋に登る階段は真っ暗だった。ついに、おじいさんには会えなかった。それでも、その親切なおじさんは快くこの写真を預かってくれた。確実に渡してもらえていると思う。 機会があれば、二人に会いにまた湾仔を訪ねたいものだ。しかし、再会は叶わないだろう。おじいさんもおじさんも、もう商売をできる年齢ではないと思える。20年という月日が流れているのだ。 この旅以降は香港、マカオに心が向かなくなった。あれほど好きだったのに。仲のいい親戚が香港に赴任している間にも、何度も誘ってくれたが、それでも行かなかった。 僕にとっての香港は、返還前のどこか宙に浮いた感じのある自由な香港だったのかもしれない。手足のすーと長いフェイ・ウォンが、上を見ながら散策している街…。20年前のチャーミングなフェイ・ウォンと湾仔で海老ワンタン麺を食べたかった。僕は陳慧琳さんとは、20年以上前のことだが、渋谷で向かい合ってラーメンを食べたことがあるのだ。 1997年末から98年始めの新生香港への旅。結局これが最後の香港になっている。帰国の日、九龍から新空港に向かう路線バスに乗った。途中、車窓から見た港湾沿いの景色は、ものすごい建設ラッシュで、これからもこの街は変わり続けて行くんだなと強く感じたことが印象に残っている。 僕は今も香港が大好きだ。もしかしたらパリよりローマより好きかもしれない。魅惑的で、古いカメラと単眼レンズが似合う街なのだ。
by leitica
| 2017-07-08 03:17
| Summilux 35F1.4
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